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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)45号 判決

控訴人(原告)

日本赤十字社

右代表者社長

山本正淑

右訴訟代理人弁護士

森恕

鶴田正信

被控訴人(被告)

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

寺浦英太郎

右訴訟代理人弁護士

山口伸六

右指定代理人大阪府事務吏員

先川進

山本隆夫

被控訴人(被告)補助参加人

大阪赤十字病院労働組合

右代表者執行委員長

吉田一江

右訴訟代理人弁護士

大川真郎

岩嶋修治

津留崎直美

空野佳弘

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立

1  控訴人(以下「原告」ともいう。)

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が、大阪府地方労働委員会昭和六〇年(不)第二六号不当労働行為救済申立事件について、昭和六一年一月一〇日付けでした不当労働行為救済命令を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人(以下「被告」ともいう。)及び被控訴人補助参加人

主文同旨

二  主張及び証拠

以下に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二枚目表一二行目の「別紙」の前に「原判決添付」を加え、同行目の「本件命令」を「不当労働行為救済命令(以下『本件命令』という。)」に訂正する。

2  同三枚目裏三行目の「請求」の次に「内容の救済の申立の部分」を、四行目の「その理由」の前に「漠然と要求項目の一部というだけで、どの要求項目が団体交渉になじまず、あるいはなじむかを具体的に特定しておらず、また、」をそれぞれ加え、七行目の「別紙命令」の前に「本件命令は、原判決添付」を、「認定した事実」の次に「のとおり本件の事実関係を認定しているが、そ」をそれぞれ加え、七行目の「第一」を「第1」に、一〇行目の「第二」を「第2」に、同四枚目表一行目の「第一」を「第1の」にそれぞれ訂正する。

3  同六枚目裏七行目の「五月一一日」を「五月一〇日」に訂正し、同七枚目表二行目の「、四月一九日の各日」を削り、四行目末尾に「また、組合は、四月一九日付け文書においても文書回答要求を撤回してはいない。同文書には『文書回答は求めません』という持って回った表現が記載されているが、これが文書回答要求を撤回したものでないことは、同月二〇日の病院側と組合の松永副委員長との事務折衝の際、同副委員長がこれを覆えす発言をしていることからも明らかである。」を加える。

4  同七枚目裏八行目の「第一」を「第1の」に、一三行目の「してきた」を「してきたが、組合はこれに対する非難攻撃を止めなかったものである」に、同八枚目表一行目の「第二」を「第2の」に、裏七枚目の「第二」を「第2の」にそれぞれ訂正し、同九枚目表七行目の「である」の次に「のに、この判断がなされていない」を加える。

5  同一〇枚目表三行目の「申し入れた」の次に「ことは事実であるが、その釈明に対する回答がないからといって、それを理由に組合に対し団体交渉に応じないと言ったようなことは一度もない。病院が右の申し入れをした」を加え、同一一枚目表七行目の「組合」から八行目末尾までを「組合による右団体交渉の申入れが、連名団体の組織の一員としてなされたものか、それとも組合が右団体と関係なく独自の立場でしたものか明らかでなく、したがって組合としては、病院に対してそのいずれであるかを明確にすべき信義則上の義務があったのにかかわらずこれをしなかったものである。」に一一行目の「とった」から一二行目末尾までを「とったものであって、このような組合の団体交渉権の行使は正当性がなく、右団体交渉の申入れは適法なものとはいえないから、仮にこれを拒否したとしても正当な理由があるというべきである。」に、裏一行目の「不当労働行為が成立する」を「団体交渉の拒否が不当労働行為となる」に、二行目の「した事項」を「した交渉の対象事項」にそれぞれ訂正し、四行目の「別紙」の前に「原判決添付」を加え、六行目の「含まれている。」を、「含まれているから、このような事項についてたとえ団体交渉を拒否してもその拒否には正当な理由があり、不当労働行為とはならない。それらの事項が」に訂正する。

6  同一二枚目表一行目の「労働協約」の前に「原告と全日赤との間で昭和三二年一二月一二日に締結された」を加え、一、二行目の「ほとんど」から五行目の「ではない」までを次のとおり訂正する。

「組合員の賃金、労働時間その他の労働条件については全日赤本部が正当な交渉団体とされ、組合はこれらの事項についての団体交渉権を全日赤本部に委譲している。また、これに対応する使用者側の当事者も、右協約により日赤本社に限られ、原告の一施設たる病院は組合員の労働条件につき団体交渉の権限を有しないというべきであるから、組合の要求した事項のうち組合員の労働条件に関するものも、団体交渉の対象事項から除外される。」

7  同一三枚目表六行目の「多岐にわた」の次に「り、重複や矛盾があ」を、七行目の「短時間」の前に「全く整理もしないで」を、八行目の末尾に「これは、病院側を困惑させ、回答できないことを見越して病院に対する攻撃材料を作り上げ、団体交渉を組合の思うままに有利に運営することを意図したものである。」を、一三行目の「田中」の前に「四月一五日の」を、裏二行目の「組合」の前に「同月二〇日」を、一一行目末尾に「しかるに、組合は何ら本件釈明に応じなかったのであるから、仮りに病院に団体交渉拒否の事実があったとしても、その拒否には正当な理由がある。」をそれぞれ加える。

8  同一四枚目裏九行目の「別紙」の前に「原判決添付」を、同一七枚目表二行目の末尾に「したがって、原告の主張する信義則上の義務など存在せず、他の団体と連名でなされた本件団体交渉の申入れが正当なものでなくなるものではない。」を、七行目末尾に「要求の正当性等について文書で回答せよと申し入れてきたのは今回が初めてであり、これまでそのようなことはなかったのである。」を、裏一三行目の末尾に「仮りに組合の要求事項に一部未整理のものや交渉になじまないものが含まれていたとしても、それは労使協議の上、現実の交渉事項を選択しその順序をつければすむことであり、現に従来の交渉ではそのように処理されてきたのである。したがって、要求事項中に一部右のようなものが含まれているからといって、全ての要求事項について一切交渉に応じないことが不当であることは明らかである。また、本件命令も、組合の要求事項全部について必ず現実に交渉すべきことを命じたものではなく、交渉になじまない事項は、協議の上これを整理し、選択することができることを当然に予定しているものとみるべきである。

なお、原告主張のような労働協約が存在することは認めるが、組合が労働条件についての団体交渉権を一切全日赤本部に委譲したようなことはない。各職場で解決を要する個別具体的な労働条件について組合に交渉権があることは明らかであり、従来から病院、組合ともそれを当然のこととして団体交渉を行ってきたのである。」をそれぞれ加える。

9  同一八枚目表一行目の末尾に「病院が本件団体交渉に応ずることを拒否したのは、組合が病院の要求する前記正当性説明文書及びその関連資料を提出しなかったことがその唯一の理由であって、本件での争点は、それが『正当な理由』に当たるかどうかの点に尽きる。組合の要求する事項に団交になじまないものが含まれていたというようなことは、病院が団交を拒否した後に言い出したことであって、病院はそれを理由に団交を拒否したものでは決してない。」を加え、同一九枚目表四行目の「多数回」を「多年」に訂正する。

理由

一  当裁判所も原告の本訴請求は失当と判断する。その理由は以下に付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  (略)

2  同二二枚目表五行目の「要求者」の前に「それぞれ」を、裏四行目の「病院は組合に対し」を「この申入れを受けた病院は、三月一一日組合に対し」と訂正し、同行目の「申入れ」の次に「をするとともに、同申入れ」を、六行目の「要求」の前に「各要求項目につき」を、同二三枚目表一行目の「非難」の前に「、前年までの対応に比べて誠意を欠き極めて敵対的な態度であると」を、一三行目の「前記」の後に「3後段」をそれぞれ加える。

3  同二五枚目表五行目の「要求書」の前に「常識的対応をとること(」を、同行目末尾に「)」を、一三行目冒頭に「一七日、一八日、」を、同行目の「組合」の次に「(平沢久一執行委員長。但し、二〇日は松永副委員長と吉川書記長)」を、「病院」の次に「(田中彰職員課長)」を、それぞれ加え、裏一行目の「病院側」から六行目の「回答した。」までを「病院側の田中課長から、組合の文書回答要求を自主的に取り消す旨の文書を提出してもらいたい、また、組合の要求事項は数も多く、病院側に処分権限のないもの等団体交渉になじまないものも含まれているので、これを整理して書き直してもらいたい旨を申し入れたところ、組合側の平沢委員長は、文書回答に固執するつもりはないがその取消しについては組合の機関にはかって検討したい、また、要求書を書き直すことはできないが、重複する頃目などは整理する必要があるのでなんらかの対応を考えたい、交渉事項については交渉の席上整理して選択すればよい旨回答した。」と訂正し、一〇行目の「文書回答」の前に「あいまいであって」を加え、一二行目の「撤回し」を「求めない旨明示したうえ」に訂正し、一二、一三行目の「団体交渉」の次に「のすみやかな開催」を加え、一三行目の「が、病院側」から同二六枚目表二行目末尾までを「。しかし、病院側の態度は変わらず、同月二〇日に折衝のために訪れた松永副委員長に対しても、田中課長から、『文書回答を求めない』でははっきりしないので明確に文書回答要求を取り消す旨表明してもらいたいと要求し、さらにその際、松永副委員長が、すでに期限も過ぎたので文書回答を求めないことにしただけであって回答を求めた事実が消えるわけではないからこれ以上は譲歩できない旨答えたことから、組合側に欺かれたとして更に態度を硬化させるようになり、同月二三日付け文書で、さらに繰り返し三・一一病院申入れの趣旨に沿う回答を履行するよう求めた。」に訂正する。

4  同二六枚目表七行目の「前提条」から一〇行目の「述べた」までを「団体交渉の前提としていることは全く筋違いであり、職場要求にもとづいて団体交渉を行うについてはなんらの支障もないはずである旨述べた」と訂正し、一一行目の「四月二三日、」を削除し、裏三行目の「の態様」を「に三・一一病院申入れの趣旨に沿って対応すること」と訂正し、一一行目の「組合」の前に「原告と全日赤との間において昭和三二年一二月一二日付の労働協約が締結されているところ、同協約においては、全日赤加盟の各単位組合の組合員の賃金・労働時間・その他の労働条件については全日赤を正当な交渉団体とする旨定められているが、賃金改定等一部の労働条件以外の個別具体的労働条件の細目については、これまでも慣行的に病院と組合間の団体交渉事項とされ、実際上も従前からそれらについて団体交渉が行われてきた。そして、」を、同行目の「要求事項」の前に「多数の」をそれぞれ加え、一三行目の「病院はこれに応じてきた」を「病院は、今回のように要求の正当性等について釈明を求めることなく、期限までに抽象的で概括的な文言によってではあるが一応文書で回答するとともに、団体交渉にも応じてきた」に訂正する。

5  同二七枚目表一行目の「昭和」の前に「とりわけ」を、三行目の「同年」の前に「回答期限である」を、四行目の「その際」の次に「本社本部間交渉事項等病院と組合間の」をそれぞれ加え、五行目の「その旨」を「従来どおり、本社・本部間で交渉願いたい等と」を訂正する。

6  同二七枚目表七行目の「以上の認定」から三一枚目裏四行目の「行為である。」までを次のとおり訂正する。

「四 控訴人は、組合の団体交渉申入れに対し病院がこれを拒否したことはないと主張するので、まずこの点について考えるに、労働組合法七条二号にいう「団体交渉をすることを拒む」とは、要するに団体交渉の申入れがあったのにこれに応じて団体交渉をしないことを意味するのであって、これを拒否し又はこれに応じない旨の意向を明示的に表明すると否とは問うところではないというべきところ、右三において認定した事実関係によれば、なるほど病院が組合に対し団体交渉を拒否し又は組合の団体交渉の申入れに応じない旨の意向を明示的に表明したことは窺われないけれども、三・九団体交渉申入れ以来組合が繰り返し団体交渉を開くよう病院に申入れているのに団体交渉が現実に行われていないことは右認定のとおりであるから、病院において団体交渉を拒否しているものというべきことは明らかである。

五 そこで次に、病院が右のように団体交渉を拒否している理由が何かを考えてみるに、右三において認定した事実によれば、病院としては、三・一一病院申入れのとおり、組合側の要求の正当性等を関連資料添付の上文書で説明した回答書を提出しない以上、組合の文書回答要求に答えることができず、団体交渉の申入れにも応ずることができない旨の意向を黙示的に表明したものと推認することができ、これが右団体交渉拒否の理由であったと認めるのが相当である。

この点につき、原告は、病院が団体交渉の申入れに応じなかったのは組合の要求事項がきわめて多数の整理されていない項目にわたり、しかもその殆どが団体交渉になじまない事項であったからであり、それがいつまでも整理されなかったことが申入れに応じなかった理由であると主張するので検討するに、病院側と組合側との折衝の過程において、病院の田中職員課長から組合の平沢久一委員長に対し、組合の要求事項は多数の項目にわたっており、また、病院に処理権限のない事項で団体交渉応諾義務のないものも多く含まれているので、これを整理して書き直してもらいたい旨を申し入れたことがあること、これに対し平沢委員長が、要求書を書き直すことはできないが、整理の必要はあるのでなんらかの対応はしたい旨を回答したことがあることは前記認定のとおりであり、また、(証拠略)によれば、病院が昭和六〇年度の組合要求に限って、従前その例のなかった三・一一病院申入れのごとき正当性等の説明要求をするようになった動機の一つとして、従来からの組合の要求事項が多数の項目にわたり、病院側に処理権限・交渉権限のないような事項も含まれていたため、それをあらかじめ整理しておく必要があると考えたような事情があったことが窺われないではない。

しかしながら、右田中課長その他の病院関係者が組合に対し、右要求事項を整理して書き直してこない限り団体交渉を開くことはできない旨の意向を明示的に表明したことを認めるに足りる証拠はないし、前記三において認定した事実関係に照らし黙示的にその意向を示したことを推認することもできないから、結局、病院が前記のように本件団体交渉の申入れを拒否するについて、組合の要求事項が団体交渉になじまない事項であることをもってその理由としたとの事実を認めることはできないといわざるをえない。

なお、このほか原告は、三・九団体交渉申入書に交渉権限を有しないいくつかの団体が名を連ねていたことも申入れに応じなかった理由であると主張するもののようであるが、病院が右の点をもって本件団体交渉拒否の理由としたとの事実を認めるに足りる証拠は見当たらない。

そうすると、本件においては、前記四のとおり、組合の団体交渉の申入れを病院が拒否した理由としては、結局、組合が病院の三・一一申入れに沿って要求の正当性等を説明した回答書を提出しなかったことが唯一のものとして認められるにすぎないというよりほかはない。

六 よって、さらに進んで、右理由が団体交渉を拒否する理由として正当なものと認められるかどうかについて検討するに、組合の団体交渉要求事項について、その趣旨、理由、根拠並びに正当性(均衡の原則、経済原則)等を団体交渉の前提として予め文書で説明しておかなければならないとする根拠はなく、また、その文書による説明がなければ団体交渉をすることができないというものでもないのであって、現に病院と組合との間において、従前からほぼ同様の要求事項についてそのような文書による説明なしで団体交渉が行われてきたことは前記認定のとおりであるから、組合が三・一一病院申入れに沿って要求の正当性等を説明した回答書を提出しないことを理由に団体交渉を拒否することはできないというべきであり、したがって、病院の右拒否理由は正当とは認め難いといわなければならない。

この点につき原告は、右要求事項には病院に処理権限のない事項等団体交渉になじまない項目が多数含まれており、それが本件団体交渉拒否理由の最大の眼目であるから、この拒否は正当な理由によるものであって不当労働行為にはならないと主張しており、また、使用者に処理権限のない事項が団体交渉の対象となりえず、それを理由に当該事項についての団体交渉を拒否しても、正当な理由による団体交渉の拒否として不当労働行為にならないことは、一般論としてはそのとおりであるけれども、本件の場合、病院がそれを理由に組合の団体交渉申入れを拒否したものとは認められないことは前記のとおりであるから、右要求事項のうちいずれが団体交渉事項に当たり、いずれが該当しないかについて論ずるまでもなく、これをもって本件団体交渉の拒否を正当ならしめる理由とすることはできない。

さらに原告は、三・一一病院申入れによる団体交渉事項の正当性等の説明要求は、組合側の文書回答要求の前提をなすものであるから、この要求が撤回されない限り、組合の説明回答書が提出されないことを理由に団体交渉を拒否しても不当でないと主張するもののようであるが、前記三で認定した事実関係からすれば、組合が文書回答要求に固執し、これがない以上団体交渉をしないとの意向を示していたものとは認められないのであって、現に四月一五日には組合委員長が文書回答要求には固執しないと言明し、同月一九日付けの組合の文書により「文書回答は求めない」旨病院に申入れていることは前記のとおりである(同月二〇日に組合副委員長がこれを撤回して再び文書回答要求をする旨病院側に申し出たような事実がないことは前記認定のとおり)から、原告の右主張も採用することができない。

七 そうすると、病院の本件団体交渉の拒否は、正当な理由によらないものであって、労働組合法七条二号の不当労働行為に該当するので、右団体交渉申入れについて、要求の趣旨、理由、根拠及び要求の正当性について説明がないことを理由に団体交渉を拒否してはならないと命じた本件救済命令には、なんら違法はないというべきである。」

7  同三一枚目裏五行目の「五」を「八」と訂正し、同行目の「齟齬」の次に「・判断もれ」を同行目の「(一)」の次に「、(三)(2)」を、同三二枚目裏一行目の「齟齬」の次に「ないし判断もれ」をそれぞれ加える。

二  以上のとおり、本件救済命令にはこれを取り消すべき違法事由はなく、原告の被告に対する本訴請求を失当として棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないので、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三八四条によりこれを棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 川勝隆之 裁判官 中村隆次)

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